様々な場面で「多様性(ダイバーシティ)」がテーマになるこの時代。夫婦のあり方や家族のあり方についても多様性の時代を迎えています。
今回は、「事実婚」という夫婦のかたちを取り上げます。入籍して一つの家で一緒に生活することだけが結婚生活ではありません。自分たちらしい結婚生活について、考えていきましょう。
「結婚=入籍が当たり前」は時代遅れ!? 入籍のデメリットとは
一昔前までは、「結婚=入籍」が当たり前でした。入籍は、女性が男性の籍に入るか、男性が女性の籍に入るかのどちらかを必ず選択しなければなりません。そして入籍をしなければ、夫婦として社会から認められませんでした。
しかし現代では、「愛する人と夫婦にはなりたいけれど、入籍を選びたくない」という人たちがいます。なぜ入籍したくない人が増えているのか、入籍に潜むデメリットを見ていきましょう。
入籍のデメリット① 男女どちらかの姓が変わる
女性が男性の籍に入ると男性の姓になり、男性が女性の籍に入るいわゆる“婿養子”になると、男性が女性の姓になります。一般的には前者の数の方が圧倒的に多く、「結婚したら女性の姓が変わること」は長い間当然のこととして捉えられてきました。しかし女性も社会で活躍するこの時代。女性の姓を変えることには大きな負担があります。
例えばキャリア女性の場合は、夫の姓になると仕事先の人や様々な関係者から「同一人物」として認識されにくく、キャリアに支障が出る懸念があります。そのため、仕事上では旧姓のまま働き続ける女性も多いです。しかし、各種資格や手続き、納税、不動産の登記などでは旧姓の使用は認められません。毎日忙しい中、それらの変更手続きをしなければならないのも負担です。
姓が変わるということや、旧姓と使い分けるということは、個のアイデンティティにも関わることです。
なぜ女性だけがこんなに負担を負わないといけないのか、疑問に感じる人たちが訴えているのが、「選択的夫婦別姓制度」。1996年から国会でも議論されていますが、今でも議論は継続されており、世論調査でも賛成と反対の対立があり進展していません。
入籍のデメリット② 「男女の役割」という既成概念にとらわれやすい
多様化の社会とはいえ、「選択的夫婦別姓制度」が導入されていなかったり、いまだに性的マイノリティの問題があるように、男女の役割という既成概念にとらわれている人もいます。
例えば、男(夫)は仕事をして女(妻)は家庭を守る…というような夫婦のあり方はもう時代遅れです。しかし、女性が男性の戸籍に入ると、男性側の親族からは「嫁」という位置付けになります。
―多様化の意識の低い親族から“嫁”として扱われることが嫌だ。
―“家”、“嫁”、“婿”という束縛から自由になりたい。
―夫婦の中だけでなく、周りからも夫と妻を対等に見てもらいたい。
こういった、社会的にも夫婦平等でいたいと願う人にとっては、入籍のハードルは高いのかもしれません。
入籍のデメリット③ 戸籍制度への疑問
夫婦同姓、別姓という問題以前に、戸籍制度に対して疑問を持つ人もいます。戸籍制度とは、戸籍簿によって、出生から死亡にいたるまでの親族的身分関係を、時間的序列に従い記録したものです。
女性が男性の籍に入った戸籍謄本を見ると、男性の情報の下に女性の名前や情報が追加されています。もし離婚をすると女性が男性の籍から抜けることになるので、女性の名前の横に「除籍」と書かれます。昔は名前の上から✖が書かれたことから「バツイチ」「バツアリ」と言われるようになったという説もあります。
ライターの私の夫もバツイチです。結婚してから各種手続きをする中で戸籍謄本が必要になり取得したのですが、自分の戸籍謄本を見てなんとも言えない気持ちになったのを今でもはっきりと覚えています。
なぜかというと、一枚目の上部に夫の名前と情報があり、その下に同じ大きさで元妻の名前があるからです。「除籍」とは書かれていますが、元妻の生年月日、両親の名前、出生地や出生届出日といったことまで記載されています。私の名前はというと、2枚目…。複雑です。
私が複雑なだけでなく、元妻にとっても、他人に自分の出生にまつわる情報が知られてしまうなんて気分が良くないだろうと思います。
また、バツイチの夫に子どもが生まれると、戸籍謄本の2枚目にある妻の情報の下に、子どもの情報が加えられます。子どもがいつかこの謄本を見たとき、父親の離婚も知ることになります。
戸籍は家族をひとまとまりにして管理していくため、今では家族でない人も含められるわけです。家族のルーツを証明する大事な書類に、当事者とは関係ない除籍された人まで名前を連ねるこの戸籍制度に疑問を抱く人は、“入籍ってどうなの?”と疑問を抱くことでしょう。
「事実婚」とは、自分たちの主体的な意思で婚姻届を出さないものの、生計や居住を共にするカップルのことです。「内縁」との違いは、事実婚では主体的に婚姻届けを出さないのに対し、内縁は何らかの理由があり婚姻届けを出せないということです。
事実婚は、
「当事者間の夫婦関係を成立させようとする合意」
「夫婦共同生活の存在」
この2つの条件があれば成立すると考えられています。
では、事実婚のメリットとデメリットを見ていきましょう。
<事実婚のメリット>
- 夫婦別姓
- “家”、“嫁”、“婿”という既成概念からの解放
- “妻”、“夫”というジェンダー役割に縛られない
- 戸籍制度で家族関係、自分を管理されない
- 財産分与や慰謝料請求、年金分割はできる
・夫婦別姓
夫婦別姓のメリットは、男女どちらも姓を変えなくて良いということです。愛着のある自分の名前を維持できるということはアイデンディが守られると言っても過言ではありません。特に、「女性が姓を変えるのは当たり前」という考え方は、「女性を下に見ている」と捉えられかねません。自分の姓でいること(夫婦別姓制度が導入されれば自分の姓を“選ぶ”こと)で、自らの尊厳を守ることができます。
職場でも姓の変更という壁がありませんし、各種手続きで姓を変更するという大変な手間がありません。
・“家”、“嫁”、“婿”という既成概念からの解放
事実婚であれば、「女性が男性の家に入り嫁になる」「男性が女性の家に入り婿になる」という“家”という面倒なしがらみに束縛されません。実家とも変わらない関係、パートナーの実家とも適度な距離感で付き合うことができます。
・“妻”、“夫”というジェンダー役割に縛られない
入籍しても夫婦平等でいられる人たちは大勢いるでしょうが、事実婚では男女平等、夫婦平等をより強く認識できます。自分たちで夫婦として役割分担していけばいいことであり、社会から「妻として」「夫として」求められることはありません。
・戸籍制度で家族関係、自分を管理されない
入籍した夫婦が離婚するときには届け出を出す必要があります。その結果、戸籍には離婚したという「除籍」の記録が残り、自分の出生情報なども記載されたままです。しかし、事実婚であれば戸籍は関係ありません。離婚に必要な手続きもありません。特に、離婚経験者にとっては、事実婚のリスクの低さは大きなメリットでしょう。
・財産分与や慰謝料請求、年金分割はできる
事実婚では戸籍は変りませんが、住民票においては「未届けの妻」「未届けの夫」と記入することができます。この世帯主と「未届けの妻(夫)」が記載されている住民票があれば、夫婦であることを証明できるので社会保険に扶養で入ることができます。
また、事実婚では法定相続人にはなれませんが、遺言により遺産を受け取ることが可能です。ただし配偶者控除は適用されないため、相続税が入籍している夫婦より高くなることには注意が必要です。
その他にも受けられる権利がたくさんあります。(条件付きのものあります。)
・遺族年金の受取人になれる
・生命保険の受取人になれる
・住宅ローンを夫婦で組むことができる
・携帯電話や自動車保険などの家族割引が使える
・相手が不貞行為などをして事実婚が解消となる場合、慰謝料を請求できる
・事実婚を開始してから二人で築いた財産は、財産分与できる
このように見てみると、法律婚と大きな差はないといっても過言ではありません。
ただし事実婚は「事実婚開始日」が明確ではないため、それを明確にしておくことで、もしもの場合にお互いの権利を守ることができます。その方法として、公証人役場にて「宣誓認証」を作成することで、事実婚の正確さが公証されます。
事実婚で生まれた子どもはどうなる?
子どもを望んでいる人にとっては気になることですよね。
事実婚の場合は、子どもは母親の籍に入ることになります。子どもの姓も母親、親権も母親になります。現在の制度では事実婚で共同で親権を持つことはできません。
しかし、戸籍上の父親は空欄になりますが、父親が「認知届」を出すことで父親との法的な関係ができます。そうすると、子どもは父親の相続ができることになります。また、認知届を出していれば、父親がその子どもを養子にすることもできるので、父親の姓を名乗ることもできます。
入籍も事実婚も自分たちらしさに合わせて選ぼう
入籍することに抵抗を感じて夫婦になることを諦めていたカップルは、事実婚という夫婦のかたちも選択肢の中に入れてみてください。結婚後どのような生活をするのかも自分たちらしく選ぶことができます。
入籍にとらわれることなく、事実婚という夫婦のかたちが自分たちらしい生き方だと思うカップルは、ぜひ前向きに考えてみてくださいね。
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